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2007年7月20日〜21日、和歌山で第44回日本臨床分子医学会学術集会が開催されました。学会初日の20日に、アークレイマーケティング株式会社共催のランチョンセミナーを開催いたしましたのでご報告いたします。
今回のランチョンセミナーは、座長に熊本大学大学院医学薬学研究部 代謝内科学分野 教授 荒木栄一先生をお招きし、京都大学大学院医学研究科 糖尿病・栄養内科学 教授 稲垣暢也先生より、「インスリン分泌分子機構からみた糖尿病治療戦略」という演題でご講演いただきました。
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▲座長の荒木先生 |
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▲演者の稲垣先生 |
1.インスリン分泌機構
平成14年の厚生労働省の調査によるとわが国では糖尿病患者が740万人、いわゆる糖尿病予備軍が880万人と推定されており、昭和30年に対して30倍以上と激増しています。その背景には、近年の環境因子の変化のほか、日本人が欧米人に比べてインスリン分泌能が低いという遺伝的特質を持っていることも一因であると考えられます。
米国では第一選択薬がビグアナイドであるのに対し、日本ではSU剤が第一選択薬となっていることも、日本人のインスリン分泌能不足といった病態の違いを反映しています。
グルコースの代謝により膵臓β細胞内でATPが上昇するとATP感受性のKATPチャネルが閉じて脱分極を起こし、電位依存型Ca2+チャネルが開いてCa2+が細胞内へ流入することによりインスリンが放出されます。インスリン分泌促進薬であるSU剤は、KATPチャネルに直接作用することによりインスリン分泌を促進しています。
分子レベルの解析により、膵臓β細胞のKATPチャネルは、Kir6.2とSUR1と呼ばれる2つのサブユニットからなる複合体であることがわかりました。近年これらのサブユニットの変異と病態との関係が明らかになってきています。
2.遺伝子変異と病態との関連
主に乳児や1歳以下の幼児で発症する遺伝性の低血糖症(HI: hyperinsulinism of infancy)の患者では、その50%にSUR1遺伝子の変異が見つかっています。SUR1サブユニットに変異があるとうまくKATPチャネル複合体を作れないため、チャネルが閉じたままになりインスリンが放出され続けます。その結果、低血糖を引き起こします。
新生児糖尿病についてもKir6.2サブユニットの変異との関連が明らかになってきています。新生児糖尿病は、永続型(PNDM: permanent neonatal DM)と一過性型(TNDM : transient neonatal DM )に分類されます。TNDMは第6染色体の異常、PNDMはこれまでグルコキナーゼ(MODY2)遺伝子異常によるものが知られていましたが、頻度がまれであるため詳細はわかりませんでした。最近の報告によると、Kir6.2サブユニットの変異が29名のPNDM中19名に見つかりました。これらの症例に対しては通常、インスリン投与を行っています。しかし、変異によりATP感受性が低下しているだけですので、SU剤(トルブタミド)によりKATPチャネルを閉鎖させればインスリンが分泌されます。ある報告によると、49例中44例(90%)でインスリンからSU剤に切り換えることができ、HbA1Cは8.1%から6.4%に改善しました。
このように、KATPチャネルの遺伝子異常は、異常部位により糖尿病と低血糖症の両者を起こしうるのです。
一方、遺伝子の変異部位と病態との関連についてもわかってきています。Kir6.2サブユニットの変異部位により遺伝子異常は大きく3つに分類されており、変異部位の違いにより神経症状の有無やその重症度も異なってくるため、テーラーメイド医療のモデルともなります。
3.新しい糖尿病経口薬インクレチン
グルコースを静脈注射で投与した場合よりも経口で投与した方がインスリン分泌を促進することから、消化管(小腸)で分泌されるホルモンであるインクレチンの存在が明らかとなりました。
インクレチンには、小腸のK細胞から分泌されるGIPと、L細胞から分泌されるGLP-1があり、膵臓β細胞にあるそれぞれの受容体に作用してインスリン分泌を促進する働きがあります。
グルコースによるインスリン分泌促進の経路(惹起経路)とは別に、インクレチンはβ細胞内でcAMPを上昇させることによりインスリン分泌に作用します(増幅経路)。インクレチンの特徴として、血糖値が低いときすなわち惹起経路が働いていないときには作用しないため、低血糖を起こさない薬剤として期待されています。ただし、生体内の半減期が1.5〜2.1分と短いため、半減期を長くするためのさまざまな製剤が開発されています。
GLP-1の作用としては、@血糖降下作用(インスリン分泌促進、グルカゴン分泌の抑制、胃排出遅延、β細胞量の増加) A体重減少作用(胃排出遅延、満腹感の亢進、摂食抑制) B糖尿病の進展抑制の可能性(β細胞のグルコース感受性の促進、β細胞量の増加)があげられます。
GLP-1アナログ製剤Exenatideは、N末端第2番目のアミノ酸をアラニンからグリシンに変えたことで、DPP-IV(GLP-1の分解酵素)による分解を受けにくくなりました。このExenatideは空腹時だけではなく食後血糖も抑えることが臨床試験でわかりました。
もうひとつのアナログ製剤Liraglutide(脂肪酸を結合させたアナログ製剤)の第二相臨床試験によると、Liraglutide 0.9mgを投与すると14週間でHbA1Cが8.1%から6.4%に低下しました。日本人において効果が大きいと期待される薬剤です。
一方でDPP-IVを阻害することによりGLP-1の活性を持続させるDPP-W阻害薬の開発も進んでいます。その一つであるSitagliptinの臨床試験では、欧米人よりも日本人に対してHbA1C低下の効果が大きいことがわかっています。
今後もインスリン分泌のいろいろな代謝経路に作用する薬剤の研究開発が進むものと考えられ、β細胞の枯渇を早い段階で食い止めることにより糖尿病の進行を抑えることができるようになるものと期待しています。
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ご講演いただきました先生方、ならびにご来場いただきました皆さまに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
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