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▲座長の矢冨先生 |
2007年7月30日、アークレイ マーケティング株式会社主催のセミナー「糖尿病とメタボリックシンドロームの新しい検査」を開催しましたのでご報告いたします。座長に東京大学大学院 医学系研究科 内科学専攻 病態診断医学講座 臨床病態検査医学分野 教授 矢冨裕先生を、演者に東京慈恵会医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 田嶼 尚子 先生と、東京大学大学院 医学系研究科 糖尿病・代謝内科 教授 門脇 孝 先生をお迎えしました。糖尿病の分野で大変著明な先生方のご講演とあり、雨にも関わらず多くの医療従事者の方々にお越しいただき満席となりました。
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「メタボリックシンドロームをみすえた新しい健診システム」
東京慈恵会医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 田嶼尚子先生
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▲演者の田嶼先生 |
■メタボリックシンドロームの概念
これまで、内臓脂肪症候群やインスリン抵抗性症候群など、多くのマルチプルリスクファクター症候群が提唱されました。これらは病因論的に論じたものですが、一方メタボリックシンドロームはその診断基準を見ると、予防と臨床的側面を重視した捉え方をしていることがわかります。メタボリックシンドロームは内臓脂肪蓄積が上流にあり、高血圧、糖代謝異常等の危険因子が重積して心血管疾患発症にいたります。メタボリックシンドロームの第一の臨床的アウトカムは心血管疾患であり、心血管疾患発症を予防するためにメタボリックシンドロームを診断・早期発見します。また、メタボリックシンドロームを呈する患者はインスリン抵抗性を持つため糖尿病の発症リスクも高く、こうして発症する糖尿病は心血管疾患の基盤だという認識が特に必要です。メタボリックシンドロームを呈する患者は糖尿病の前段階であることを意識し、動脈硬化発症の抑制を念頭に治療を進めなければなりません。
■新しい健診システム
2008年4月から実施される特定健康診査は、2008年から2015年の間に糖尿病等の生活習慣病の患者・予備群を25%減少させることを目標としています。基本的な考え方も以前の健康診査と異なっており、ターゲットをメタボリックシンドロームに絞り、結果を重視して行動変容につなげることが目的になっています。特定健康審査の結果でグループ分けし、受診者の保健指導を行います。このグループ分けの判断基準に、空腹時血糖100mg/dL以上、HbA1C5.2%以上が使われています。
これらの値はどのように決定されたのでしょうか?食後高血糖は糖尿病・心血管疾患のリスクファクターです。食後高血糖を呈するIGTをスクリーニングする空腹時血糖はどれくらいが適当であるか、いくつか研究がなされています。舟形町における健診データから分かった研究結果では、OGTT2時間値140mg/dLに相当する空腹時血糖は98mg/dLでした。またDECODA studyでは、OGTT2時間値200mg/dLに対応する空腹時血糖値のカットオフ値は104mg/dLであると発表されました。北欧の研究The Botnia studyでも同じような結果が発表されています。このような研究結果と、他の国際的基準値との整合性などを総合的に考え、空腹時血糖100mg/dLという判断基準値になったのでしょう。そしてHbA1Cは、空腹時血糖100mg/dLに対応する値に設定されています。ある健診受診者集団において、空腹時血糖値100mg/dL以上の割合とHbA1C5.2%以上の患者割合がほぼ一致しました。舟形町研究では、HbA1C5.0〜5.4%から新規糖尿病発症率が有意に上昇しました。DECODA studyではOGTT各判定区域のHbA1C値が研究されましたが、境界域患者のHbA1C値は正常に近い値を示しています。
空腹時血糖とHbA1Cのどちらを測定すべきか?これまでの傾向で考えると、HbA1Cがこれから多く測定されるようになるのではないかと私は考えています。胃の検査や超音波検査を行うときなどは空腹時でなければいけませんから、こういった検査に合わせて血液検査を行う場合は空腹時血糖が測定されるでしょう。しかし最近では、糖尿病は食後高血糖に注意するというのが共通認識ですから、糖尿病の検査は必ずしも空腹時血糖ではなくなっています。そのためHbA1Cはこれから必要不可欠な検査となっていくでしょう。そこで問題となってくるのはコストです。最近はサンクHbA1C(アークレイ)のような酵素法を原理とする試薬でHbA1Cを測定できるようになり、コストダウンも達成できるでしょう。
■メタボリックシンドロームをみすえた糖尿病治療
動脈硬化を基盤とする心疾患・脳血管疾患は日本人の死亡原因の3割を占め、糖尿病はこれらの基盤となる病態です。そしてメタボリックシンドロームは糖尿病の基盤であり、メタボリックシンドロームを早期に発見することは大変重要です。
私が改めて強調したいのは、糖尿病の治療は血糖コントロールをないがしろにしてはいけないということです。空腹時血糖だけでなく食後血糖、HbA1Cを正常に保つことは糖尿病治療の必須であります。では予備群患者はいったい何を目標に治療をすればよいのでしょうか。この問題は連続血糖測定で解決できます。現在CGMS(連続血糖モニタリング)の装置を入手できる環境が日本でも整いつつあります。連続血糖データによりどのポイントを目標にすればよいか明らかにでき、説得力をもって患者に説明することでモチベーションを高められるようになるでしょう。
今年の11月に第3回糖尿病実態調査が行われます。今年はどのようなデータになるのでしょうか。もし有病者数が増えているなら、新しい健診システムを使った糖尿病・生活習慣病対策にますます力をいれなくてはいけません。いずれにせよ新しい健診システムは、メタボリックシンドロームをみすえて動脈硬化発症を未然に防ぐ内容で、指導にあたる医療従事者にとっては大変やりがいのある内容です。これ以上患者数を増やさないために、一緒に頑張りましょう。
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「メタボリックシンドロームとバイオマーカー」
東京大学大学院 医学系研究科 糖尿病・代謝内科 教授 門脇孝先生
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| ▲演者の門脇先生 |
■メタボリックシンドロームの病態と分子機構
メタボリックシンドロームの基盤病態はインスリン抵抗性であり、メタボリックシンドロームの治療はインスリン抵抗性をいかに改善するかが焦点となります。インスリン抵抗性は内臓脂肪の蓄積により惹起されます。内臓脂肪の蓄積は血中遊離脂肪酸増加・アディポカイン分泌異常をきたし、肝臓・筋肉に脂肪が沈着し、インスリン抵抗性を引き起こすのです。アディポカインの一つであるアディポネクチンは、脂肪燃焼に関わるAMPキナーゼやPPARαを活性化し脂肪燃焼を促進します。
■メタボリックシンドロームのバイオマーカーとしてのアディポネクチンの意義
遺伝子多型により個人のアディポネクチン分泌能は異なります。アディポネクチン遺伝子SNP276遺伝子型にはTT型・GT型・GG型の3種が存在し、GG型はTT型と比較してアディポネクチン分泌量が少ないことが分かっています。日本人の約40%はこのGG型の遺伝子多型を持っており、アディポネクチン遺伝子多型は日本人2型糖尿病の遺伝素因の約15%を占めます。また、アディポネクチンの欠乏はインスリン抵抗性や2型糖尿病を惹起するだけでなく、直接血管に作用して動脈硬化を促進します。実際に血中アディポネクチン濃度が低下すると、糖尿病や冠動脈疾患のリスクが増加することが実験で明らかとなっており、血中アディポネクチン濃度の低下は糖尿病や動脈硬化を起こす病因として重要であるのみならず、それらを予測する重要なバイオマーカーであるといえます。
血中アディポネクチンには低分子量・中分子量・高分子量の3タイプが存在します。糖代謝を改善し、脂肪燃焼に関わるAMPキナーゼ活性化能は高分子量アディポネクチンで非常に強く、低分子量・中分子量アディポネクチンでは弱くなります。肥満で分泌量が低下するのも高分子量アディポネクチンであり、低分子量・中分子量アディポネクチンの分泌量は肥満で大きく変化しません。したがって高分子量アディポネクチンが測定できれば、現在測定されているような総アディポネクチンよりもさらに優れたメタボリックシンドロームのバイオマーカーとなるでしょう。
■メタボリックシンドロームの治療戦略とバイオマーカー
糖尿病の前段階では、多くの場合メタボリックシンドロームを発症しています。心筋梗塞や脳卒中を完全に抑制するには糖尿病を発症してからでは遅く、より早期からメタボリックシンドロームや糖尿病の発症・進行を抑制するための治療戦略をたてるべきです。その治療戦略とは、
@生活習慣(過食・高脂肪食・運動不足)と内臓脂肪蓄積の是正
Aリスクファクター(食後高血糖・高血圧・脂質代謝異常)の総合的な是正
B基盤病態(アディポネクチン分泌量低下、インスリン抵抗性など)の根本的な是正です。
薬剤についてはどうでしょう。メタボリックシンドロームが基盤にある糖尿病では、チアゾリジン誘導体が適切だと考えています。チアゾリジン誘導体の投与で、高分子量アディポネクチンが増加するという結果が出ています。チアゾリジン誘導体は高分子量アディポネクチン分泌量を増加させるだけでなく、TNFαやレジスチンといったインスリン抵抗性を増大させる物質の分泌を低下させます。
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| ▲会場は超満員でした。 |
■メタボリックシンドロームのテーラーメイド予防・治療とバイオマーカー
今後重要となるのは、遺伝素因解明や新規バイオマーカー開発を進め、糖尿病発症リスクを解明することです。新規バイオマーカーについては、内臓脂肪のみから分泌され、測定するだけで内臓脂肪量が正確に推定できるようなバイオマーカーの開発が求められます。また現在はCTスキャン・ウエスト周囲径で内臓脂肪量の測定・推定をおこなっていますが、CTはX線被爆、ウエスト周囲径は正確性の問題があります。そこで非侵襲的かつ高精度に内臓脂肪量を測定できる方法の開発がもとめられています。その他、基礎代謝を簡便・正確に測れる方法の開発、遺伝子多型の解明ももとめられるでしょう。
このような開発を進めることで、個々人の糖尿病タイプに応じたテーラーメイド保健指導・療養指導が行えるようになるでしょう。おなじ糖尿病でも、どのような合併症を起こしやすいかに応じて治療や薬剤を変更し、より的確で効果の高い治療が行えるものと考えられます。
そしてメタボリックシンドロームのバイオマーカーである高分子量アディポネクチン測定は、糖尿病・メタボリックシンドローム・インスリン抵抗性の病態診断、易罹患性診断、糖尿病治療薬に対する反応性診断として期待されます。21世紀の新しい糖尿病医療には4つのP @Prediction(予測) APrevention(予防) BPersonalization(個別化) CParticipation(参加) が大切ではないかと考えています。
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ご講演いただきました先生方、ならびにご来場いただきました皆さまに、この場を借りて申し上げます。ありがとうございました。
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